大きく変わる前に、小さな「始まり」があります
(前編)
お母さんへ。
「まだ全然なんです。」と
お話しになることがあります。
たしかに、
毎日スムーズに
進むわけではありません。
ノートを開かない日もある。
机に向かえない日もある。
昨日できたことが、
今日はできないこともあります。
そんな日が続いていると、
お母さんから見れば、
「何も変わっていない。」
と思えるかもしれません。
でも私は、
そんな時ほど、
少し違うところを
見るようにします。
以前なら、
声をかけても
まったく動かなかった。
ところが今日は、
「今日は、ここまで。」
そう言いながら、
少しだけ
ノートを開いてみた。
一行だけ読んで、
閉じた。
五分だけ座って、
席を離れた。
これだけを見ると、
「たったそれだけ?」
と思われるかもしれません。
でも、昨日まで
「ゼロ」だったところに、
小さな「始まり」が
生まれています。
私は、この瞬間を
とても大切にしています。
私たち大人は、
「何ページできた。」
「何分勉強した。」
「学校へ何日行けた。」
そんな目に見える結果で、
変化を確かめたくなります。
けれど、その少し手前にも、
子どもの中で何かが
動き始めている時間があります。
子どもの変化は、
ある日突然、大きく
ドラマティックに現れるもの
ではありません。
急に何時間も
勉強するようになったり、
突然、毎日学校へ
行けるようになったり。
そんな大きな姿から
始まることは、
ほとんどありません。
むしろ、
「ちょっとやってみようかな。」
「これならできるかも。」
そのような、本人も
気づかないくらいの
小さな動きから、
始まります。
だから、
「まだ、これしかできない。」
ではなく、
「今日は、ここから始められた。」
と見なおしてみる。
すると、
それまで「できていない」と
思っていた時間の中にも、
小さな変化が
見えてくることがあります。
子どもはまだ、大きく
変わっていない。
でも、
昨日までなかったものが、
今日、一つ生まれたなら……
私はそこに、
これからにつながる
大切な入口がある
と思っています。
「また戻ってこられた」も、大切な成長です
(後編)
お母さんへ。
小さな「始まり」が見えてくると、
今度はつい、
「このまま続いてほしい。」
と思いますよね。
昨日できたのだから、
今日も。
今日できたのだから、
明日も。
親としては、
自然なお気持ちだと思います。
けれど、
子どもの変化は、
きれいな右肩上がりには
ならないことがあります。
少し動き始めたと思ったら、
また止まる。
できるようになったと思ったら、
次の日にはできない。
そんなこともあります。
でも私は、
そこで、
「元に戻ってしまった。」
とは考えません。
一度止まったあと、
またノートに触れられた。
また教室へ来られた。
また少し話せた。
また一問、
自分で考えてみた。
その、
「また戻ってこられた」
ということも、
大切な変化だからです。
毎日続けられることだけが、
成長ではありません。
止まる日があっても、
また始められる。
疲れたら休んで、
できそうになったら
もう一度戻ってくる。
そんな経験を重ねることで、
子どもの中に、
「一度止まっても大丈夫。」
という感覚が
少しずつ育つことがあります。
だから私は、
毎日完璧に続けることを
急ぎません。
「もっと頑張らないと。」
「毎日やらないと意味がない。」
そんな言葉で、
せっかく生まれた小さな動きを、
重たいものにしたくないからです。
今日は五分。
明日はゼロ。
その次の日には、
十分できるかもしれません。
大切なのは、
できなかった一日を
数えることではなく、
その子がもう一度、
「ちょっとやってみようかな。」
と思えた瞬間を
見逃さないことです。
子どもの成長は、
「できるようになった」
だけではなく、
「また始められるようになった」
という形でも
現れるのだと思います。
大きな成果になる前の、
ほんの小さな変化。
そこを大切に見ていると、
子どもが歩き始めていることに、
私たち大人の方が
気づけるようになります。
焦らなくて大丈夫です。
止まったり、
また動いたりしながら、
その子なりの流れが、
少しずつ生まれていきます