伏見稲荷が最も賑わう二月の初午の日、『枕草子』の作者清少納言も稲荷社に参詣しています。桜もほころぶ陽春の最中(3月中旬から下旬)暁方に早出して歩みを進めるものの稲荷山の山道は存外きつく、はや十時頃になってしまいました。だんだん暑くなり、彼女はもう半泣き。疲れて坂の途中で休んでいると、40余りの女性とすれ違う。「私は七度詣でをやっているの。もう3度終わったわ。あと4回。今日中にできるわ。」といって下の方にすたすた歩いて行ってしまいました。清少納言はもうその女性の活力に驚くばかり。彼女は「羨ましい。ああだったらいいのに…」と思った訳です。七度詣でというのは「お山めぐり」を七回完遂することです。相当の難行苦行です。稲荷山は海抜二三三m。一ノ峰、二ノ峰、三ノ峰を巡拝すると約二時間かかります。稲荷社は今でこそ金運利運の神として有名ですが、かつては男女の縁を取り結ぶ恋の神、愛の神であったわけです。
