ランニングに最適な季節ですが、夏の間に運動量が減っていた方は、急な負荷増加で膝の痛みを起こすことがあります。その代表的な原因の一つが「腸脛靭帯炎(ITBS)」です。ITBSは膝の外側に痛みを生じるオーバーユース障害で、ランナーの約5〜12%に発症します。特にトレーニング量の急増や下り坂走行などで発症しやすいとされています。
従来は「摩擦による炎症」と考えられてきましたが、近年の研究では「圧迫説」が支持されています。Faircloughら(2006)は、ITBが滑走するのではなく、その下の脂肪組織を圧迫して痛みが生じる構造であることを解剖学的に証明しました。Lavine(2010)らもこの考えを支持し、痛みの主因はITB下方の脂肪体・滑膜体の炎症であると報告しています。
痛みは膝屈曲約30°(ランニングの接地相)で最も強くなり、股関節や膝、足部のアライメント異常がリスクを高めます。特に中殿筋・大殿筋の筋力低下による大腿骨の内旋・内転はITBの張力を増大させ、圧迫ストレスを強めます。圧迫により神経が集中する脂肪組織が刺激され、慢性的な炎症と線維化が起こることで柔軟性が低下し、痛みの悪循環が生じます。
痛みの軽減のためには以下の3つが重要です。
1.股関節外転筋の強化:中殿筋・大殿筋を鍛えることでITBの張力を減らします(例:クラムシェル、サイドレッグリフトなど)。
2.フォームの修正:膝の内側偏位や過剰な足部回内を修正することで負荷を軽減。専門家の分析が有効です。
3.トレーニング負荷の調整:距離やスピードを急に増やさず、特に下り坂や片側走行を控えることが大切です。
運動は健康維持に欠かせませんが、痛みを放置すると慢性化することもあります。身体のサインに耳を傾け、フォームの見直しや適切なメンテナンスを行うことで、快適に運動を続けられる身体づくりを目指しましょう。