今後の展開
本研究により、mRNA ワクチン接種後心筋炎の発症において、ミトコンドリアの状態が重要なリスク因子となることが明らかになりました。今後、ミトコンドリア機能を指標としたリスク評価法の開発により、発症リスクが評価できるようにになると期待されます。また、ミトコンドリア機能を標的とした予防的介入(抗酸化剤や細胞死制御薬など)が副反応の軽減につながることも考えられます。
図 本研究で解明した mRNA ワクチンによる心筋炎発症の分子機構
mRNA ワクチン接種により、ミトコンドリア由来の活性酸素(ROS)が産生する。ミトコンドリア機能が低下した状態では、この酸化ストレスに応じて炎症性細胞死(ネクロプトーシス)が誘導され、心筋障害が引き起こされる。
用語解説
注1) ミトコンドリア
細胞内に存在する小器官で、主に酸素を利用してエネルギーを産生する役割を担う。特に心臓など、エネルギー需要の高い組織では、正常な機能の維持に不可欠である。独自の DNA(ミトコンドリア DNA)を持ち、1 つの細胞内に多数存在するミトコンドリアそれぞれに複数コピーが含まれる。そのため、ミトコンドリア DNA に軽度の損傷があっても直ちに機能異常として現れにくい一方で、ストレスが加わると機能低下が顕在化することがある(ミトコンドリアの脆弱性)。活性酸素の産生や細胞死の制御にも関与しており、その機能破綻は細胞障害や炎症の誘導につながる。
注2) 活性酸素(ROS: reactive oxygen species)
細胞内で酸素を利用したエネルギー産生の過程などで生じる、反応性の高い酸素種の総称。細胞内のシグナル伝達に関与するが、過剰に産生されるとタンパク質や脂質、DNA を損傷する。
注3) ネクロプトーシス(炎症性細胞死)
RIPK3 キナーゼというタンパク質によって制御されるプログラム細胞死(不要な細胞の計画的な自殺)の一種。細胞内容物が周囲に放出されることにより強い炎症反応を引き起こす。静かに処理される細胞死(アポトーシス)とは異なり、組織障害や炎症の増幅に関与する。