研究内容と成果
まず、mRNA ワクチン接種後に心筋炎を発症した日本人患者(平均年齢約 22.6 才、男性 4 人、女性 2人)の心筋生検組織を解析し、ミトコンドリアの形態が異常であること、および酸化的リン酸化(酸素呼吸を通じて細胞内でエネルギーを産生するプロセス)関連遺伝子の発現が低下していることを明らかにしました。これにより、mRNA ワクチン接種後の心筋炎発症例において、ミトコンドリア脆弱性が関与している可能性が示唆されました(参考図)。
次に、ミトコンドリアが持つ独自の DNA(ミトコンドリア DNA)の複製酵素であるポリメラーゼγ(Polg)遺伝子に、DNA 複製時の校正機能を部分的に低下させる変異を導入したマウスを作製しました。このマウスは通常の状態では顕著な異常を示さず健康に生育することから、潜在的にミトコンドリア機能が低下した状態を再現するモデルとして利用できます。このモデルマウスに mRNA ワクチンを接種したところ、顕著な心機能の低下と炎症細胞の浸潤が誘導され、ヒトの心筋炎に類似した病態が再現されました。これらの結果から、ミトコンドリア機能の低下が心筋炎の原因であると考えられました。
さらに分子機構の解析から、ワクチンに含まれる人工脂質がミトコンドリア由来の活性酸素(ROS:reactive oxygen species)注2)の産生を増加させ、それが引き金となって RIPK3 キナーゼというタンパク質を介したネクロプトーシス(炎症性細胞死)注3)を誘導することが明らかになりました。加えて、ミトコンドリア特異的抗酸化剤やネクロプトーシス阻害剤の投与により、mRNA ワクチン接種後の心機能低下を抑制できることも確認されました。
一方、mRNA ワクチン接種後の心筋炎の発症リスクは若年男性で最も高く、若年女性と比較して約 8〜10 倍であることが報告されています。そこで、女性ホルモンであるエストロゲンによる細胞内シグナルを活性化する薬剤を投与したところ、mRNA ワクチン接種による心機能低下を予防できることが明らかとなり、心筋症発症における性差の一因を説明できる可能性が示されました。