冷房機器が発達していなかった昔、日本人は、涼しい気分を演出することで夏の暑さを乗り切る生活の知恵を身につけていた。夏の風物詩と呼ばれる風鈴の涼やかな音、金魚、清流を連想させる和菓子、涼しげな浴衣のデザイン、軽やかな下駄の音などである。
これらは、ただ単に涼しい気分にさせるためだけのものなのであろうか?
実は、これらの演出には、実際に体温を低下させる作用がある。
夏は暑いとイライラとしがちである。イライラとすると交感神経が刺激される。イライラとしないまでも、温熱刺激そのものが交感神経を亢進させる。つまり、夏は交感神経が亢進状態に置かれやすい季節なのである。漢方では、それを「陽の気が亢進する」、アーユルヴェーダでは、「ピッタ(火の要素)が亢進する」と表現する。
交感神経とは、人体を闘争もしくは逃走に向けて準備させる神経である。交感神経が亢進すると、体内のエネルギー産生が高まり、心拍数が上がり人体深部の血流が増えるが、重要臓器に血流を集めるために四肢や体表付近の血管が収縮する。その結果、四肢や体表からの放熱が妨げられ、熱がより一層体内の深部にこもりやすい状態が生み出される。
つまり、交感神経が興奮すると体幹部の体温が上昇するのである。
一方、涼しさの演出は人をゆったりとした気分にさせ交感神経の活動を抑え、副交感神経優位の状態に置く。副交感神経は、人体を「休養・回復」や「省エネルギー」モードに入れる。体内のエネルギー(熱)産生を抑え、心拍数が下がり全体の血流量は落ちるが、四肢や体表付近の血管は拡張する。その結果、血流が体の隅々までスムーズに流れるようになり、四肢や体表からの放熱が促進されることになる。その結果、体温が実際に低下するのである。
「熱い」「涼しい」というのは、物理的な温度のことではなく、温度に対する脳の解釈(認識)である。普通は、高温刺激に対して「温かい」「熱い」という主観的な感覚をもたらすニューロンが興奮する回路が形成されている。だが、「涼しい」「冷たい」という主観的な感覚をもたらすニューロンがそれ以上に強く興奮するなら、「温かい」「熱い」という主観的な感覚に打ち勝つことが可能である。
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