久保人形ひいなや

今から15年ほど前のことです。
母と一緒にアーケードを歩き、すっかり日が暮れて商店街の灯りが煌々とした夜の時間に人形店へ入りました。

明るい照明のある店内は、人形店らしい明るさだなと思います。ひいなや店内には一人のベテランらしき女性が店番をしているのみでした。閉店時間が近いことを告げられたと記憶しています。
店内には、縮緬細工や、手芸作品風の和風小物などや、日本人形が見られたと思います。ギリギリで間に合ったと思い、お店の中をさっと見て回ろうとしました。
お店の女性が声をかけてきて、何を探しているのか聞かれました。必要なものを伝えると、木でできた箪笥の小さな引き出しの中からでしたか、伝えた通りのものを丁寧に取りあげてこちらに見せていただきました。

人形の髪を、個人的に求めていました。日本人形の黒髪がこの店にはありました。
日本人形の黒髪はひと房のものを一束に、和紙を輪にしたもので纏められてありました。ひと房というのは、何百本もの絹糸を丁寧に手作業で揃えたもので、揃えた絹糸を、片手に乗せることができるほどの幅になるよう、巻いて一束に纏めてありました。
黒々とした黒髪は日本人形にみられる髪そのもので、質感は艶が少なく上品で糊をされていない絹糸そのものでした。とても軽いもので、手の平に乗せて頼りなく、こまやかで細くまっすぐな髪の一本一本はもしへたに引っ張ったとしたら千切れてしまいそうなほどでした。家に戻ってこれが日本人形の髪か美しいものだなと、しげしげ眺めて感心したものです。
お店の女性の手で、人形の髪を丁寧な仕草で薄い半紙のような白い袋に嵌めていただき、昔からある封筒のような形の簡単な紙袋で、簡単に折り目をつけて封をされた袋を大事に手に持って帰りました。

商品を探している段階で、入口の近くに見つけた階段から上の階に上がろうとしましたがたしかそちらはお教室だと言われたように思います。
店にある張り紙を見ると、ちりめん細工などの人形教室を開講されているとのことでした。お教室へは当時は興味がありませんでしたが、材料が足りなくなってもすぐに揃う人形屋さんでの教室は便利だと思いますし、日本の伝統を学べるお教室は素晴らしいです。本格的な日本人形を置いてあるお店は高松市では多くありませんですしその中でお教室を開講されているところは少数と思います。
私は当時、手芸品などに興味があり、一度人形を作成してみたいと思っていたところでした。ここで購入した日本人形の髪を長くずっと持っていて、一人で作り方がわからず悩み続けるよりは大人になって人形教室を受講したほうがよかったかもしれないと思います。