安寿

板橋の閑静な住宅街に佇む「安寿」。
格子戸を開けると、静謐な和の空間が
そっと迎えてくれます。
カウンターに座ると、大将の丁寧な手仕事が
目の前で展開されます。
無駄のない所作に、長年の経験が感じられます。
おまかせコースを頼むと、
まず運ばれてきたのは蕗の薹の白和え。
山の香りが春の訪れを告げます。
お造りは、真鯛と平政の二種盛り。
研ぎ澄まされた包丁技が光る一品で、
魚本来の甘みを引き出しています。
煮物椀は、筍と若芽。
澄んだ出汁に春の息吹が溶け込み、
優しい味わいが広がります。
焼物は、のどぐろの塩焼き。
シンプルな調理法だからこそ、
素材の質の良さが際立ちます。
炊き合わせには、新じゃがに人参、いんげん。
一つ一つが丁寧に火入れされ、
野菜の甘みを存分に引き出しています。
小鉢の数々も手が込んでいます。
菜の花のおひたしは、
かつお節の香り豊かな逸品。
お食事は筍の炊き込みご飯。
土鍋から立ち上る香りに、
春の訪れを感じる贅沢なひととき。
器選びも見事で、
青磁や織部など、季節感のある器が
料理の魅力を一層引き立てます。
大将との静かな会話も心地よく、
旬の食材の話に花が咲きます。
その言葉に、料理への真摯な想いを感じます。
お店には常連のお客様が多く、
皆さん落ち着いた雰囲気で
料理を楽しんでいらっしゃいます。
価格も良心的で、
この品質の料理を
気負わず楽しめるのが嬉しい。
また新しい季節の訪れと共に、
この静かな空間を訪れたいと思います。
心からのごちそうさまでした。