ポチ さん
2025-10-21

国宝霧島神宮の聖域の傍らで味わう、鹿児島の回る涼

3.50

国宝霧島神宮のほど近く、御手洗の滝の気配を感じる神聖な森の中
その店は、喧騒から切り離されたように静かに佇んでいます

​鹿児島で「そうめん流し」といえば、指宿発祥の回転式テーブルが有名です
竹を割った上を流れる「流しそうめん」とは異なり、円形のテーブルで水が巡る、あの独特の風情
こちらは、まさにその鹿児島の夏を体現した一軒と言えるでしょう

​道沿いの駐車場に車を預け、緑深き坂道をゆっくりと下っていきます
それだけで心が洗われるようなアプローチです
やがて現れるのは、森の空気と滝の気配に包まれた開放的な空間
夏場は行列が絶えないというのも頷けます

​訪れたのは10月の中旬
夏の盛りは過ぎていましたが、幸運にもお店は開いていました
伺えば、今年(令和7年)は11月いっぱいまで営業されるとのこと
この時期に、この清涼感を味わえるのは得難い体験です

​システムは、入口の受付で先に注文と会計を済ませるスタイル
今回はセットではなく、そうめんの単品(1,300円)をお願いしました
​正直に申し上げて、そうめん単品として見れば、価格は少々強気に感じられるかもしれません
しかし、これは単なる食事代ではありません
この霧島の神聖な自然、滝の音、そして回転式テーブルという体験全体を享受するための「席料」
そう解釈すれば、むしろ妥当と言えるでしょう

​セルフサービスの水を汲んでテーブルで待つ間もなく、そうめんが運ばれてきました
氷と共にザルに盛られた姿が、目にも涼やかです
​テーブルで、清らかな水がくるくると回り続けています
箸でそうめんをすくい、その流れに放ち、再びそれを捉えてつゆに浸す
この一連の所作が、日常を忘れさせ、一種の瞑想的な時間を与えてくれます
​麺は、奈良の三輪そうめんを使用されているようです
細身ながらもしっかりとしたコシがあり、冷水でキリリと締められた喉越しは格別です
​興味深かったのは、めんつゆでした
鹿児島のつゆといえば、地元特有のしっかりとした甘さが際立つものが多いですが、こちらのつゆは甘さが比較的控えめ
すっきりと、出汁の風味を感じる上品な味わいに仕立てられています
土地の標準的な味に慣れた方には少し物足りなく感じるかもしれませんが、三輪そうめんの上品な風味を引き立てる、洗練されたバランスとも言えるでしょう

​季節は秋に移ろいでいましたが、この場所だけは夏の輝きを留めているようでした
「夏の風物詩」という言葉がふさわしい、清らかなひとときです
​ごちそうさまでした

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みたらしの滝そうめん流し
  • 霧島神宮駅
  • ホテル・ビジネスホテル・旅館
ポチ さん
2025-10-18

天文館に輝く、鹿児島ラーメンの王道

5.00

南九州一の繁華街、天文館
​その一角に、昼夜を問わず客足の絶えない一軒のお店があります
​夜に訪れてもなお、そこには行列ができていました
メディアで広く取り上げられている証左か、地元客に混じり、観光客や海外からの訪問者の姿も多く見受けられます
この日も15分ほど並びましたが、その待ち時間が期待感を静かに高めてくれました

​店内はカウンター席と座敷席という、どこか懐かしさを覚える構成です
今回はカウンター席へと案内されました
​実はこれまでにも何度か訪れており、ここの焼豚と炒飯の美味しさは記憶に鮮明に残っています

今回も迷わず、その記憶を確かめるように「チャーシュー麺」と「半炒飯」を注文しました
​待つこと10分ほどで、注文の品が運ばれてきます

目の前に置かれたチャーシュー麺は、まさに鹿児島ラーメンの「王道」と呼ぶにふさわしい堂々とした佇まいです
​丼を覆い尽くすほどのたっぷりのチャーシュー
そしてネギ、香ばしい焦がしネギ、キクラゲが、豊かな表情を加えています
​スープは、こってりと濃厚すぎず、どちらかといえばあっさりとした洗練された口当たりです
しかし、その奥には深い旨味が満ち溢れています
飲むたびに「これぞ鹿児島ラーメンだ」と深く納得させられる、優しくも確かな滋味深さです
​麺はやや細めで、この奥深いスープを巧みに持ち上げてくれます
主役であるチャーシューも、味が芯までしっかりと染み込んでおり、期待を裏切らない美味しさです
すべての具材とスープ、麺が一体となった、非常に完成度の高い一杯と言えるでしょう

​そして、もう一方の主役である「炒飯」もまた見事な仕上がりです
卵をたっぷりと使い、強火で一気に仕上げたことが伝わるパラパラとした食感
味付けも濃すぎず薄すぎず、絶妙な塩梅です

​ラーメンのスープを一口含み、炒飯を頬張る
この繰り返しが、互いの旨味をさらに引き立て、レンゲと箸が止まらなくなります

​会計は食後にレジで行うスタイルです
​地元民から国内外の観光客まで、これほど多くの人々を引きつける理由が、この一杯と一皿には確かに存在します
天文館の喧騒の中で、変わらぬ美味しさを提供し続ける名店の力を再確認しました
​大変美味しくいただきました
ごちそうさまでした

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ラーメン小金太
  • 甲東中学校前駅
  • 和食
ポチ さん
2025-10-17

​名山堀の灯、郷土の滋味に心ほどける夜

4.50

鹿児島市役所にほど近い、時の流れが作り出したレトロな街「名山堀」
昼間の活気ある姿も良いですが、地元民が愛するのは陽が落ちてからのこの街の表情です
暖かい光を灯す店々が、まるで訪問者を優しく誘うかのように路地に点在し、喧騒は去り、ゆったりとした時間が支配します
​そんな名山堀の夜、以前から気になっていた一軒の暖簾をくぐりました

メディアでもしばしばその名を目にする人気店『串幸』さんです
​引き戸を開けると、外のノスタルジックな雰囲気とは少し趣の異なる、明るく清潔感のある空間が広がっていました
店内は比較的新しい感じで、老舗の風格と現代的な快適さが見事に共存しています
先客で賑わうカウンターではなく、ゆっくり背をもたれることが出来るテーブルに腰を下ろし、今宵の美食への期待に胸を膨らませます

​メニューもいろいろです
酒肴の定番から、この地ならではの食材を活かした郷土の味まで、鹿児島の食の豊かさを物語っています
この日は車での訪問だったため、残念ながらアルコールの杯を重ねることは叶いませんでしたが、その分、料理への集中力は一層高まります
​まずお願いしたのは、鹿児島の夜に欠かせないキビナゴの刺身
銀色に輝くその姿は、まるで錦江湾の月光をそのまま皿に写したかのよう
酢味噌をほんの少しだけつけて口に運べば、繊細で清らかな甘みがすっと溶けていきます

​続いて、鰹の腹皮の炙り
ぱちぱちと音を立てながら炙られた皮目の香ばしさが、まず鼻腔をくすぐります
一口頬張れば、凝縮された鰹の旨味と、上質でしつこさのない脂がじゅわりと広がり、思わず吐息が漏れるほどの美味しさです
これぞ、鹿児島の食文化の奥深さを感じさせる逸品と言えるでしょう

​注文は口頭でも紙に書いても受け付けてくれる柔軟さがありながら、厨房ではタブレットでオーダーを管理しているという現代的な一面も垣間見え、この店の持つ新旧のバランス感覚を象徴しているように感じました
​どの皿も丁寧に作られており、店主の誠実な仕事ぶりが伝わってきます

『串幸』という一軒の店を通して、名山堀という街が持つ懐の深さに改めて触れた夜でした
​この魅力的な路地には、まだ見ぬ感動が数多く眠っているはずです
次回はどの店の扉を開けようか、そんな楽しみを胸に、心地よい満腹感と共に店を後にしました
ごちそうさまでした

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串幸
  • 市役所前駅(鹿児島)
  • 焼き鳥
ポチ さん
2025-10-02

キャラメルナッティが主役、贅沢な午後のひととき

3.00

暦の上では秋だというのに、肌を焼くような日差しが続く10月のある日
ひんやりとした誘惑に抗えず、久しぶりにサーティワンのアイスクリームケーキを食べたいと思い立ちました
​事前にネットで予約を済ませていたため、店舗での受け取りは実にスムーズです

スタッフの方に名前を告げると、準備を待つ間にどうぞと、スプーンに載せられた新製品を差し出してくれました
こうした細やかな心遣いが、心を和ませてくれます

​今回私が選んだのは「キャラメルナッティケーキ」
丁寧に梱包された箱を受け取る際、ドライアイスの扱いについて丁寧な説明を受け、その配慮に店の質の高さを感じました
​さて、自宅に持ち帰り箱を開けると、愛らしいデコレーションのケーキがお目見えです
正直なところ、価格から想像していたよりは少し小ぶりな印象でした
ナイフを入れてみると、予期せぬ発見がありました
土台の部分はアイスクリームではなく、ケーキ生地でした
全てがアイスクリームだと思っていたので、これは少し意外な驚きでした

​一口含むと、まず主役であるキャラメルのほろ苦い甘さが、ナッツの香ばしい食感とともに口いっぱいに広がります
濃厚なキャラメルの風味とカリッとしたナッツの歯触りが心地よいコントラストを生み出していました
アイスクリーム自体は比較的さっぱりとした味わいで、キャラメルとナッツの風味を静かに引き立てる名脇役といったところです

​ただ、全国的に展開する他のチェーン店の同種の商品と比べると、サイズ感については少し物足りなさを感じるかもしれません
オールアイスクリームの満足感を期待する方や、コストパフォーマンスを重視する方には、少し違う選択肢もあるように思います
​とはいえ、キャラメルの風味を主軸に置いたこの構成は、一つの完成されたデザートとして魅力的です

期待とは少し違う側面もありましたが、それもまた食の探求の面白さ
これはこれで一つの個性として、記憶に残る一品となりました

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サーティワンアイスクリーム
  • 都城駅
  • スイーツ
ポチ さん
2025-09-30

​王道かつ丼に宿る黒豚の魂と、白熊の変わらぬ衝撃

4.00

験担ぎの日に選ぶ食事には、自ずと力が宿るものを求めるものです
今回足を運んだのは、鹿児島の食文化を牽引するフェニックスグループの一角、「いちにっさん」
同系列のそば茶屋と同じビルに暖簾を掲げるこの店で、目的はもちろん「黒豚のロースかつ丼」です

​扉を開けると、そこは国際的な活気に満ちた空間でした
飛び交うインバウンドの異国の言葉、その熱気は今の日本の食が世界からいかに注目されているかを物語っているかのようです

テーブル席へと案内され、早速目当てのかつ丼と、食後の楽しみに小さな白熊「こぐま」を注文しました
​待つことしばし、盆に乗せられてやってきたかつ丼は、一つの完成された逸品でした

厚く切られた黒豚のカツを優しく覆う、黄金色に輝く玉子
その下には飴色に透き通る玉ねぎが覗き、ご飯の一粒一粒には秘伝のタレが艶やかに染み込んでいます
​まず、主役であるカツを一口
驚くほど厚いのに、歯切れは柔らかく、衣は出汁を吸ってもなお心地よい食感を残しています
噛みしめると、黒豚特有の上品な甘味と力強い旨味がじゅわりと溢れ出すのです
普通の豚とは一線を画す、黒豚特有の融点の低い脂が舌の上でなめらかに溶けていく感覚は、まさに官能的としか言いようがありません
脂身でありながら、少しも重さを感じさせない軽やかさ、これぞ黒豚特有の真骨頂でしょう
​そして、この一杯の完成度を決定づけているのが、全体をまとめ上げる掛けつゆです
そば茶屋の系列店であることから、その出汁の質の高さは想像に難くありません
鰹節や昆布の風味が豊かに香り立つこのつゆが、カツの旨味、玉子の甘味、そしてご飯の甘味を見事に調和させています
​脇を固める赤だしも、実に心憎い演出です
甘い麦味噌文化が根付くこの地で供される赤だしは、それだけで新鮮な驚きがあります
かつ丼の甘く優しい味わいに対し、きりりとした塩味と深いコクが鮮やかな対比を描き、一口ごとに味覚をリセットしてくれます

​食後にいただいた「こぐま」もまた、期待を裏切らない一品でした
小ぶりなサイズながら、色とりどりのフルーツが惜しげもなく飾られています
そして特筆すべきは、氷を掘り進めた先、その中心の底に潜む餡と煮豆の存在です
このささやかな驚きが、一杯のかき氷に特別な物語を与えています
かつて東京の店舗で人々を熱狂させたという白熊のインパクトは、今なお健在でした

​国際的な賑わいの中でいただく、鹿児島の誇りが詰まった一杯
それは、単なる食事ではなく、この地の豊かさと、日本の食の現在地を体感する貴重な経験となりました
美味しかったです

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いちにいさん 天文館店
  • 天文館通駅
  • しゃぶしゃぶ
ポチ さん
2025-09-27

600円は値段相応

2.50

車を走らせていると、ふと目に留まった一軒の食堂
派手な看板があるわけでもなく、ただそこに静かに佇む姿に心惹かれ、昼をいただくことにしました

店の前に数台分の場所はありますが、交通量のある道沿いゆえ、車を停めるには少しばかり技量がいるかもしれません

​暖簾をくぐると、そこには時間がゆるやかに流れる大衆食堂の空間が広がります
使い込まれたであろう座敷と厨房を臨むカウンター
たちのぼるタバコの煙が、良くも悪くもこの店の歴史を物語っているようで、訪れる人を選ぶかもしれません
時間も限られていたため、タバコ嫌いですが、そのままカウンターの隅に腰を下ろしました

​メニューに目をやれば、そのほとんどが六百円という嬉しい値付けです
迷った末に選んだのは、定番ともいえるチキン南蛮
厨房の様子が伺える席だったのですが、この価格で提供するための工夫と努力が垣間見えるようでした

​盆に乗せられて運ばれてきたのは、5つの鶏肉が盛られたメインの皿に3品のおかず、そして艶やかな白飯と味噌汁
この3種のおかずが、実に丁寧な仕事ぶりでした
派手さはないものの、口に運ぶとホッとするような、実直な味わいが広がります

主役を支える脇役たちの確かさに、この店の良心を感じました
​さて、主役のチキン南蛮ですが、私の舌には少々馴染まない点があったのも正直なところです
衣の具合や甘酢の塩梅はさておき、火入れに僅かなむらがあったように感じられました
1個、また1個と箸を進めましたが、うち2個は中心部がまだ淡い赤みを帯びており、ここで箸を置くことにしました
これはあくまでその日の、そして私の一皿の上での出来事であったと思いたいです

​食事が終わるのを見計らったかのように差し出された一杯のアイスコーヒー
量は僅かでしたが、その予期せぬもてなしが、心に残ったチキン南蛮への小さなわだかまりを、そっと溶かしてくれるようでした
値段相応のお店でした

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大八食堂
  • 日当山駅
  • 食堂
ポチ さん
2025-09-23

​水源の恵みと六日間の結晶、行列が証す鹿児島の氷菓

5.00

​暦の上では秋の声を聞く九月、されど肌を焼く陽射しは未だ夏の続きを告げています
火照った身体を内から鎮めるには、やはり冷たいものが恋しくなるものです
行き交う人々が手に持つ清涼感に誘われ、鹿児島でその名を知られた氷屋さんへと足を運びました

​店の前には、この一掬の涼を求める人々の列が絶えることなく続いています
それもそのはず、こちらで供される氷は、ただの氷ではありません
鹿児島市郊外の名水、「大重谷水源の原水」をじっくりと、実に六日間もの時間をかけて凍らせた特別な結晶です
併設された工場で丁寧に作られるその氷は、市内の多くの飲食店からも信頼を寄せられる逸品です
北国の天然氷とは成り立ちこそ異なりますが、南国鹿児島の地で最上の氷を追求する、その誠実な仕事ぶりに期待が膨らみます

​今回選んだのは「ベリーしろくま」
愛らしい名前の通り、しろくまをベースに数種のベリーがあしらわれた一品です
注文を終え、カウンター越しにその工程を眺めていると、職人の手によって氷が芸術へと昇華していく様子が見てとれます
ゆっくりと温度を戻し、削るのに最適な状態になった氷の塊が、薄く、そして空気を含むようにふわりと削られていきます
器の中に雪のような氷が積もり、その中腹に鮮やかなベリーが顔をのぞかせ、再び氷のベールを纏います
仕上げに特製の白いシロップがとろりとかけられ、三粒のブルーベリーで描かれた瞳と鼻が、愛嬌のある表情を完成させました

​手渡された器はずしりと重く、想像を上回る大きさに心が躍ります
一口含むと、舌の上で儚く溶ける氷のきめ細かさに驚かされます
六日間という長い時間をかけて不純物を取り除かれた氷は、雑味が一切なく、水本来の清らかな甘みを感じさせてくれます
その繊細な氷に、優しい甘さのしろくまシロップが絶妙に絡み合います
そして食べ進めるうちに、中から現れるイチゴやベリーたちの鮮烈な酸味
この甘さと酸味の見事な対比が、次の一口、また次の一口へとスプーンを誘います
​かなりの量がありながらも、最後まで飽きることなく楽しめるのは、計算された味の構成と、何より氷そのものの質の高さ故でしょう

店の周りには腰掛けられる椅子が用意され、食べ終えた後のための分別ゴミ箱や手洗い場まで設えられている心遣いも嬉しいところです
​鹿児島の暑い夏にとって、なくてはならない一軒
行列の先に待つ至福の涼は、訪れる人々を確かに幸せにしていました

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柳川氷室
  • 二軒茶屋駅(鹿児島)
  • スーパーマーケット・食品・食材
ポチ さん
2025-09-21

日常の片隅で見つけた、北の大地が詰まった宝石箱

4.00

鹿児島を代表するホームセンター、その一角がにわかに活気づき、普段とは違う熱気を帯びていました

目的の品を探す足を止めさせたのは、紛れもなく北の大地、北海道から届いた食の輝きでした
​南九州の穏やかな日差しの中で暮らしていると、時折、遠い北の厳しくも豊かな自然が育んだ味覚に、どうしようもなく心が引かれてしまいます
デパートの催事場を彩る華やかな物産展とは少し趣が異なり、日常の延長線上にある空間で出会うからこそ、その存在感は一層際立つのかもしれません
​ずらりと並ぶのは、北の海が磨き上げた海の幸や、素朴で優しい甘さが魅力の菓子たち
その一つひとつが、北国の風景を雄弁に物語っているかのようです

​数ある魅力的な食材の中から、今回私が選び取ったのは、海の幸を贅沢に盛り込んだ弁当と、見るからに濃厚な輝きを放つウニでした
価格は決して日常的とは言えませんが、それを手に取らせるだけの力が、この小さな折箱にはありました
​蓋を開けた瞬間に立ち上る、清涼な磯の香り
そこには、色とりどりの海の宝石が、まるで絵画のように美しく並べられています

一口、また一口と箸を進めるたびに、それぞれのネタが持つ個性豊かな旨味と食感が、口の中で見事な調和を奏でます
これは単なる弁当ではなく、北海道の雄大な海岸線を旅するような、味覚の紀行です
​そしてウニ
舌の上でとろりと溶けていくその瞬間、凝縮された甘みと深いコクが、ふわりと広がります
雑味が一切なく、後に残るのはただ、至福の余韻だけ
この一瞬のために、北の海の漁師たちは厳しい自然と対峙し、職人たちはその恵みを最高の形で届けてくれるのです

​物産展という空間が持つ、特別な魔法
それは、その場で調理されたものではなくとも、その土地の空気や作り手の想いを想像させ、私たちの味覚をより豊かにしてくれる力です
「北海道物産展で買った」という事実が、最高のスパイスとなり、目の前にある料理をさらに特別な一皿へと昇華させてくれます

​目まぐるしい日常からほんの少しだけ離れて、遠い北の大地に想いを馳せる
そんなささやかで贅沢な時間が、日々の暮らしに彩りを与えてくれるのです
たまにはこんな食体験も良いものだと、心からそう思える出会いでした

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株式会社ニシムタ 五十市店
  • 五十市駅
  • スーパーマーケット・食品・食材
ポチ さん
2025-09-20

客足の絶えない広島流、その一枚に宿る店の個性

3.00

​週末の昼下がり、ふと霧島市の大学近くに広島のお好み焼き店があることを思い出し、無性にあの味が恋しくなり足を運びました
​大阪の「混ぜ焼き」とは一線を画す、生地と具材を重ねて蒸し焼きにする広島のスタイルは、お好み焼きの原風景のひとつです
期待に胸を膨らませて暖簾をくぐります

​案内されたのは、鉄板の目の前という特等席でした
リズミカルにヘラが鉄板を叩く音、ソースが焦げる香ばしい薫り、そのすべてを間近で感じられるこの場所は、まさにライブステージの最前列です
店内にはカウンターの他にテーブル席も用意されています
入店した時は静かでしたが、それは嵐の前の静けさだったようです
すぐさま次々とお客さんが訪れ、あっという間に活気で満たされました
持ち帰りの注文も多いようです

鉄板の上では、家庭用とは比べ物にならない数の生地が手際よく焼かれていきます
​注文は、メニューを見て伝票に番号と麺の種類を書き込むという合理的なシステムです
今回は生イカとエビが入ったミックスを、麺はそばでお願いしました

​目の前で繰り広げられる調理の過程は、お好み焼きという料理の醍醐味を改めて教えてくれます
薄く伸ばされた生地の上に、山盛りのキャベツ、そして具材が丁寧に重ねられていく様は、ひとつの作品が生まれる瞬間を見ているかのようです
​ただ、ひとつだけ個人的に気になった点がありました
調理の過程で、お店独自の調合と思われるいくつかの調味料が、私が今まで見てきたどのお店よりも多く使われているように見えたのです
これはお店の味の核となる部分なのでしょう
好き嫌いがありそうです

​さて、15分ほどで焼き上がったお好み焼きが、湯気を立てながら目の前に供されます
熱々の鉄板から、コテで直接口へと運ぶ一口
ソースの香りと旨味、そしてそばの食感が一体となります
味わいとしては、多くの人に親しまれるであろう安定感のあるものです
ただ、調理の光景が脳裏にあったからか、どうしてもその調味料の存在が後味に残り、私の好みからは少しだけ外れてしまったのは正直なところです
もちろん、これはあくまで私の個人的な感想に過ぎません

​客足が絶えず、多くのファンに支持されているという事実が、この店の魅力を何よりも雄弁に物語っています
この味を求めて人々が集まる、学生街に根付いた確かな一軒でした
ごちそうさまでした

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お好み焼いずみ広島風
  • 国分駅(鹿児島)
  • 和食
ポチ さん
2025-09-17

​喧騒の天文館で知る、串カツ田中のもう一つの顔

3.00

​南九州随一の賑わいを見せる鹿児島、天文館の昼下がり
目的の店もなく、食を探して歩く足がふと止まったのは、見慣れた​「串カツ田中」でした
​その名は、日が落ちてからこそ輝きを増すものとばかり思っていました
しかし、店先にはランチ定食を知らせる実直な文字が並びます
夜の活気と熱気を知る者として、この店の昼の顔に強く心を引かれ、吸い込まれるように扉を開けました
​店内に広がっていたのは、想像していたランチタイムの慌ただしさとは少し違う、ゆったりとした時間でした
テーブルのあちらこちらで、すでに頬を赤らめた紳士淑女たちが、串を片手にグラスを重ねています
12時を少し回ったばかりというのに、そこは紛れもない祝祭の空間
その片隅のテーブルで、これから定食を味わおうとしている自分は、まるで舞台の袖から主役たちを眺める観客のようでした

​程なくして運ばれてきたのは、「串カツ・から揚げ定食」
こんがりと揚がった串カツの豚、玉ねぎ、レンコン、そして愛嬌のあるハムカツ
その隣には、しっかりと存在感を放つ唐揚げが二つ鎮座しています
​オーダーを受けてから一本ずつ丁寧に揚げられたであろう串たちは、実に美しいきつね色
ソースをたっぷりとまとわせ口に運べば、さくりとした衣の小気味よい食感と、素材それぞれの実直な旨みが広がります
派手さはないものの、期待を裏切らないこの揺るぎない味わいこそ、多くの人に愛される所以なのでしょう
​唐揚げもまた、王道の美味しさ
ご飯を小盛にしてもらった盆の上は、まるで揚げ物たちの小さな祭典のようです

​しかし、食べ進めるうちに一つの確信が胸に満ちていきました
この店の料理が持つ本当の輝きは、やはりアルコールという名の光を得てこそ最大限に放たれるのかもしれない、と
​もちろん、定食として何ら不足はありません
むしろ、この価格で揚げたてを味わえるのは大きな魅力です
ただ、周りのテーブルから聞こえる楽しげな談笑や、カランと鳴る氷の音に包まれていると、この空間の主役は串カツであり、酒であり、そして何より人と人との賑わいなのだと感じずにはいられませんでした

昼の顔を覗き見たからこそ、夜の魅力がより深く理解できた、そんな貴重な体験
次回は迷わず、酒場の住人としてこの暖簾をくぐりたい
そう心に誓い、活気あふれる天文館の喧騒へと再び歩き出したのです

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串カツ田中 センテラス天文館店
  • 天文館通駅
  • 串揚げ