
水源の恵みと六日間の結晶、行列が証す鹿児島の氷菓
暦の上では秋の声を聞く九月、されど肌を焼く陽射しは未だ夏の続きを告げています
火照った身体を内から鎮めるには、やはり冷たいものが恋しくなるものです
行き交う人々が手に持つ清涼感に誘われ、鹿児島でその名を知られた氷屋さんへと足を運びました
店の前には、この一掬の涼を求める人々の列が絶えることなく続いています
それもそのはず、こちらで供される氷は、ただの氷ではありません
鹿児島市郊外の名水、「大重谷水源の原水」をじっくりと、実に六日間もの時間をかけて凍らせた特別な結晶です
併設された工場で丁寧に作られるその氷は、市内の多くの飲食店からも信頼を寄せられる逸品です
北国の天然氷とは成り立ちこそ異なりますが、南国鹿児島の地で最上の氷を追求する、その誠実な仕事ぶりに期待が膨らみます
今回選んだのは「ベリーしろくま」
愛らしい名前の通り、しろくまをベースに数種のベリーがあしらわれた一品です
注文を終え、カウンター越しにその工程を眺めていると、職人の手によって氷が芸術へと昇華していく様子が見てとれます
ゆっくりと温度を戻し、削るのに最適な状態になった氷の塊が、薄く、そして空気を含むようにふわりと削られていきます
器の中に雪のような氷が積もり、その中腹に鮮やかなベリーが顔をのぞかせ、再び氷のベールを纏います
仕上げに特製の白いシロップがとろりとかけられ、三粒のブルーベリーで描かれた瞳と鼻が、愛嬌のある表情を完成させました
手渡された器はずしりと重く、想像を上回る大きさに心が躍ります
一口含むと、舌の上で儚く溶ける氷のきめ細かさに驚かされます
六日間という長い時間をかけて不純物を取り除かれた氷は、雑味が一切なく、水本来の清らかな甘みを感じさせてくれます
その繊細な氷に、優しい甘さのしろくまシロップが絶妙に絡み合います
そして食べ進めるうちに、中から現れるイチゴやベリーたちの鮮烈な酸味
この甘さと酸味の見事な対比が、次の一口、また次の一口へとスプーンを誘います
かなりの量がありながらも、最後まで飽きることなく楽しめるのは、計算された味の構成と、何より氷そのものの質の高さ故でしょう
店の周りには腰掛けられる椅子が用意され、食べ終えた後のための分別ゴミ箱や手洗い場まで設えられている心遣いも嬉しいところです
鹿児島の暑い夏にとって、なくてはならない一軒
行列の先に待つ至福の涼は、訪れる人々を確かに幸せにしていました
- 二軒茶屋駅(鹿児島)
- スーパーマーケット・食品・食材

日常の片隅で見つけた、北の大地が詰まった宝石箱
鹿児島を代表するホームセンター、その一角がにわかに活気づき、普段とは違う熱気を帯びていました
目的の品を探す足を止めさせたのは、紛れもなく北の大地、北海道から届いた食の輝きでした
南九州の穏やかな日差しの中で暮らしていると、時折、遠い北の厳しくも豊かな自然が育んだ味覚に、どうしようもなく心が引かれてしまいます
デパートの催事場を彩る華やかな物産展とは少し趣が異なり、日常の延長線上にある空間で出会うからこそ、その存在感は一層際立つのかもしれません
ずらりと並ぶのは、北の海が磨き上げた海の幸や、素朴で優しい甘さが魅力の菓子たち
その一つひとつが、北国の風景を雄弁に物語っているかのようです
数ある魅力的な食材の中から、今回私が選び取ったのは、海の幸を贅沢に盛り込んだ弁当と、見るからに濃厚な輝きを放つウニでした
価格は決して日常的とは言えませんが、それを手に取らせるだけの力が、この小さな折箱にはありました
蓋を開けた瞬間に立ち上る、清涼な磯の香り
そこには、色とりどりの海の宝石が、まるで絵画のように美しく並べられています
一口、また一口と箸を進めるたびに、それぞれのネタが持つ個性豊かな旨味と食感が、口の中で見事な調和を奏でます
これは単なる弁当ではなく、北海道の雄大な海岸線を旅するような、味覚の紀行です
そしてウニ
舌の上でとろりと溶けていくその瞬間、凝縮された甘みと深いコクが、ふわりと広がります
雑味が一切なく、後に残るのはただ、至福の余韻だけ
この一瞬のために、北の海の漁師たちは厳しい自然と対峙し、職人たちはその恵みを最高の形で届けてくれるのです
物産展という空間が持つ、特別な魔法
それは、その場で調理されたものではなくとも、その土地の空気や作り手の想いを想像させ、私たちの味覚をより豊かにしてくれる力です
「北海道物産展で買った」という事実が、最高のスパイスとなり、目の前にある料理をさらに特別な一皿へと昇華させてくれます
目まぐるしい日常からほんの少しだけ離れて、遠い北の大地に想いを馳せる
そんなささやかで贅沢な時間が、日々の暮らしに彩りを与えてくれるのです
たまにはこんな食体験も良いものだと、心からそう思える出会いでした
- 五十市駅
- スーパーマーケット・食品・食材

客足の絶えない広島流、その一枚に宿る店の個性
週末の昼下がり、ふと霧島市の大学近くに広島のお好み焼き店があることを思い出し、無性にあの味が恋しくなり足を運びました
大阪の「混ぜ焼き」とは一線を画す、生地と具材を重ねて蒸し焼きにする広島のスタイルは、お好み焼きの原風景のひとつです
期待に胸を膨らませて暖簾をくぐります
案内されたのは、鉄板の目の前という特等席でした
リズミカルにヘラが鉄板を叩く音、ソースが焦げる香ばしい薫り、そのすべてを間近で感じられるこの場所は、まさにライブステージの最前列です
店内にはカウンターの他にテーブル席も用意されています
入店した時は静かでしたが、それは嵐の前の静けさだったようです
すぐさま次々とお客さんが訪れ、あっという間に活気で満たされました
持ち帰りの注文も多いようです
鉄板の上では、家庭用とは比べ物にならない数の生地が手際よく焼かれていきます
注文は、メニューを見て伝票に番号と麺の種類を書き込むという合理的なシステムです
今回は生イカとエビが入ったミックスを、麺はそばでお願いしました
目の前で繰り広げられる調理の過程は、お好み焼きという料理の醍醐味を改めて教えてくれます
薄く伸ばされた生地の上に、山盛りのキャベツ、そして具材が丁寧に重ねられていく様は、ひとつの作品が生まれる瞬間を見ているかのようです
ただ、ひとつだけ個人的に気になった点がありました
調理の過程で、お店独自の調合と思われるいくつかの調味料が、私が今まで見てきたどのお店よりも多く使われているように見えたのです
これはお店の味の核となる部分なのでしょう
好き嫌いがありそうです
さて、15分ほどで焼き上がったお好み焼きが、湯気を立てながら目の前に供されます
熱々の鉄板から、コテで直接口へと運ぶ一口
ソースの香りと旨味、そしてそばの食感が一体となります
味わいとしては、多くの人に親しまれるであろう安定感のあるものです
ただ、調理の光景が脳裏にあったからか、どうしてもその調味料の存在が後味に残り、私の好みからは少しだけ外れてしまったのは正直なところです
もちろん、これはあくまで私の個人的な感想に過ぎません
客足が絶えず、多くのファンに支持されているという事実が、この店の魅力を何よりも雄弁に物語っています
この味を求めて人々が集まる、学生街に根付いた確かな一軒でした
ごちそうさまでした
- 国分駅(鹿児島)
- 和食

喧騒の天文館で知る、串カツ田中のもう一つの顔
南九州随一の賑わいを見せる鹿児島、天文館の昼下がり
目的の店もなく、食を探して歩く足がふと止まったのは、見慣れた「串カツ田中」でした
その名は、日が落ちてからこそ輝きを増すものとばかり思っていました
しかし、店先にはランチ定食を知らせる実直な文字が並びます
夜の活気と熱気を知る者として、この店の昼の顔に強く心を引かれ、吸い込まれるように扉を開けました
店内に広がっていたのは、想像していたランチタイムの慌ただしさとは少し違う、ゆったりとした時間でした
テーブルのあちらこちらで、すでに頬を赤らめた紳士淑女たちが、串を片手にグラスを重ねています
12時を少し回ったばかりというのに、そこは紛れもない祝祭の空間
その片隅のテーブルで、これから定食を味わおうとしている自分は、まるで舞台の袖から主役たちを眺める観客のようでした
程なくして運ばれてきたのは、「串カツ・から揚げ定食」
こんがりと揚がった串カツの豚、玉ねぎ、レンコン、そして愛嬌のあるハムカツ
その隣には、しっかりと存在感を放つ唐揚げが二つ鎮座しています
オーダーを受けてから一本ずつ丁寧に揚げられたであろう串たちは、実に美しいきつね色
ソースをたっぷりとまとわせ口に運べば、さくりとした衣の小気味よい食感と、素材それぞれの実直な旨みが広がります
派手さはないものの、期待を裏切らないこの揺るぎない味わいこそ、多くの人に愛される所以なのでしょう
唐揚げもまた、王道の美味しさ
ご飯を小盛にしてもらった盆の上は、まるで揚げ物たちの小さな祭典のようです
しかし、食べ進めるうちに一つの確信が胸に満ちていきました
この店の料理が持つ本当の輝きは、やはりアルコールという名の光を得てこそ最大限に放たれるのかもしれない、と
もちろん、定食として何ら不足はありません
むしろ、この価格で揚げたてを味わえるのは大きな魅力です
ただ、周りのテーブルから聞こえる楽しげな談笑や、カランと鳴る氷の音に包まれていると、この空間の主役は串カツであり、酒であり、そして何より人と人との賑わいなのだと感じずにはいられませんでした
昼の顔を覗き見たからこそ、夜の魅力がより深く理解できた、そんな貴重な体験
次回は迷わず、酒場の住人としてこの暖簾をくぐりたい
そう心に誓い、活気あふれる天文館の喧騒へと再び歩き出したのです
- 天文館通駅
- 串揚げ

看板犬が迎える、驚愕コスパの絶品チキン南蛮
平日の昼下がり、車を走らせているとふと目に留まった電飾看板のサイン
その控えめながらも確かな存在感に引かれ、吸い込まれるように駐車場へと滑り込みました
店の扉に手を掛け、ゆっくりと開いたその瞬間、予期せぬ出迎えに心が躍ります
一頭の人懐っこいボーダーコリーが、穏やかな表情で迎えてくれました
犬好きにとっては、これ以上ないほどの歓迎と言えるでしょう
ワンちゃんに導かれるまま、広々とした店内のテーブル席へと腰を下ろしました
カウンター席も設えられた空間は、静かで落ち着いた時間が流れています
幸運にも他にお客さんの姿はなく、この贅沢な空間を独り占めです
メニューの中から選んだのは、この地方のソウルフードとも言えるチキン南蛮
昨今では1000円を超えることも珍しくない一品が950円という価格で、さらにランチコーヒーは150円で付けられるというのですから驚きです
店主がお一人で切り盛りされているようですが、ホールには最高の接客係がいます
先ほどのワンちゃんが、客に寄り添うように静かに佇み、無言の癒やしを与えてくれます
決して吠えることもじゃれつくこともなく、ただそこにいるだけで満たされる、そんな不思議な存在感を放っていました
程なくして運ばれてきた料理を見て、再び驚かされます
メインの皿には、チキン南蛮だけでなくチキンカツまで添えられ、その脇を固めるのは夏野菜の天ぷらに、見るからに味の染みた豚軟骨の煮物、そしてサラダ
これは、想像を遥かに超えるコストパフォーマンスです
まずは主役のチキン南蛮を一口
南蛮酢の酸味は穏やかで、鶏肉の旨味を優しく引き立てています
そして特筆すべきは、茹で玉子がざっくりと混ぜ込まれた自家製のタルタルソースでしょう
このソースがまさに逸品で、まろやかなコクと絶妙な食感が、淡白な鶏肉の味わいを何倍にも昇華させています
このタルタルソースはもはや脇役ではなく、もう一つの主役と呼ぶに相応しい存在感を放っていました
ゴーヤや茄子、オクラといった夏野菜の天ぷらは揚げたての香ばしさ
豚軟骨の煮しめは、南九州ならではの甘辛い味付けが郷愁を誘います
一つ一つの料理に手抜かりがなく、店主の誠実な仕事ぶりが伝わってきました
メインの皿と一緒に小鉢が運ばれてきます
サツマイモ「紅はるか」の輪切りと、ゴーヤときゅうりの和え物
デザートかと思いきや、箸休めといったところでしょうか
この肩の力が抜けたような一品が、また家庭的で温かい気持ちにさせてくれます
最後に、喫茶店ならではの深い味わいのアイスコーヒーを
看板犬の穏やかな寝息をBGMに、ゆったりと流れる時間に身を任せるのは、まさに至福のひとときでした
美味しい料理と心からの癒やし
ここは単なる食事処ではなく、訪れる者の心まで満たしてくれる特別な場所のようです
素晴らしいランチとの出会いに感謝します
ごちそうさまでした
- 西都城駅
- カフェ・喫茶店

産業道路沿いの活気と選択の妙、釜炊きご飯の食堂
鹿児島市の大動脈とも言える産業道路沿いに、その店はあります
全国展開する「まいどおおきに食堂」のスタイルを踏襲し、地域に根差した食堂として多くの人で賑わっています
平日の昼時、広い駐車場はすでに満車に近い状態でした
車を停め、期待と共に入口をくぐると、店内は活気に満ち溢れています
トレーを持って好きなおかずを自分で選び、最後にご飯と汁物を受け取って会計する、いわゆるカフェテリア形式です
この日は混雑しており、行列は長く伸び、先に並ぶ人の背中で全貌を見通すのは難しい状況でした
流れを止めないよう、目に留まったものを直感的にトレーに乗せていきます
焼き物のコーナーで鶏の照り焼きを、煮物のコーナーで茄子を選び取りました
席についてゆっくりと自分の選んだラインナップを確認すると、少々驚きました
茄子の煮物にも鶏肉が使われており、図らずも主菜が重複してしまったのです
これは、混雑の中で瞬時に判断を下さなければならない、このシステム特有の落とし穴かもしれません
選んだのは、鶏照り焼き、茄子の煮物、小ライス、そして豚汁
合計金額は1000円を超えていました
一品一品の単価が積み重なるため、定食として考えるとやや割高に感じられるのは正直なところです
一度トレーに乗せてしまうと戻しにくい雰囲気もあり、選択には計画性が必要でしょう
さて、肝心の味わいです
全体として、多くの人が美味しいと感じるであろう安定感があります
おかずはご飯が進むよう、やや濃いめに仕上げられていました
豚汁は、鹿児島特有の強い甘さは控えめで、万人に受け入れられやすい標準的な味わいです
特筆すべきはご飯でしょう
店先には米ぬかが無料配布されており、釜で炊き上げているこだわりが感じられます
実際、米粒の立った美味しいご飯でした
周囲を見渡すと、常連と思われる客は厨房のスタッフに声をかけ、作りたての料理を受け取っていました
列に並ぶだけでなく、そうしたコミュニケーションを取ることで、より満足度の高い食事ができるのかもしれません
初めての訪問で学んだのは、まず列に並ぶ前に、どのようなおかずがあるのか全体像を把握することの重要性です
慌ただしいランチタイムにおいて、自分の好みや予算に応じて素早く食事を組み立てられる利便性と、選択の難しさが同居する店でした
- 上塩屋駅
- 食堂

名店の出汁が紡ぐ、十割蕎麦とかつ丼の競演
週末の昼下がり、かねてよりその佇まいが気になっていた蕎麦屋を訪れました
広々とした駐車スペースに車を停め、店の入り口へ向かうと「ご予約のお客様のみ入店可」という案内が目に留まります
しかし、幸運なことに、扉を開けて尋ねてみると快く席に通していただけました
その間も、予約なしで訪れる客が後を絶たず、ラッキーでした
店内は、木の温もりを感じる小上がり席とテーブル席が配置され、落ち着いた雰囲気を醸し出しています
看板や店内の掲示を見ると、十割手打ち蕎麦とおでんとあり、この店の二枚看板であることが伺えます
暑い夏日でしたので、今回は看板商品の手打ち蕎麦と、出汁への期待が高まる「かつ丼」をいただくことにしました
通常は小うどんが付くそうですが、看板の蕎麦に変更できるという嬉しいサービスです
待つことおよそ10分、盆に載せられて運ばれてきたのは、背は低いものの直径の大きな丼に盛られたかつ丼と、不揃いな麺が手打ちならではの風情を伝える蕎麦、そして彩りを添える漬物です
まずは、かつ丼から一口
おでんや蕎麦の出汁をベースにしているであろうその出汁は、驚くほど深みと旨味に満ちています
出汁の優しい味わいが、ふわとろの卵と調和し、揚げたてのカツを優しく包み込んでいます
そしてその旨味が、ふっくらと炊かれたご飯にしっとりと染み込んでいて、一口ごとに感動が広がります
ただ、一点だけ、カツが少しだけ硬めに揚がっていたのが惜しまれました
しかし、それを差し引いてもなお、出汁の美味しさが際立つ、完成度の高い一杯です
続いて、期待の十割蕎麦です
口に含むと、出汁と蕎麦の香りが豊かに広がり、その確かな仕事ぶりに感銘を受けます
蕎麦自体も風味豊かで、喉越しも申し分ありません
しかし、一つだけ好みが分かれるかもしれないと感じたのが、多めに使われた柚子の香りです
清涼感はもたらしてくれますが、せっかくの出汁や蕎麦の繊細な風味が、少しだけ柚子の香りに押されているように感じられました
別添えで、好みに応じて香りを加えることができれば、より一層、蕎麦本来の魅力を楽しめるのではないかと思いました
店を出る頃には、次から次へと予約客が訪れ、その人気ぶりを改めて実感しました
次は少し肌寒くなった頃に、この出汁でじっくり煮込まれた、もう一つの看板商品であるおでんを味わいに再訪したいと思います
この店の出汁の魔術を、また違った形で堪能できる日が楽しみでなりません
- 三股駅
- うどん

時が止まる空間で味わう、潔い手打ち十割
姶良市加治木町、高速道路のインターチェンジと国道10号を結ぶ幹線は、日頃から多くの車が行き交う場所です
その道沿いに、まるで時が止まったかのようにひっそりと佇む一軒の古民家的なお店があります
ここが、今回の蕎麦屋です
朝9時から暖簾を掲げるという、この界隈では稀有な存在
朝の光が差し込む時間に、打ち立ての蕎麦を手繰れるというのは何とも贅沢な体験でしょう
店の前に立つと、周囲の喧騒から切り離されたかのような静けさを感じます
古びた看板や暖簾が醸し出すオーラは、一見の客を少しだけ躊躇させるかもしれません
その暖簾をくぐると、そこには唯一無二の空間が広がっていました
店内に入ってまず目を奪われるのは、左手にある土間のような調理場です
そこに鎮座するのは、まるで昔話に出てくるかのような大きなかまど
麺を茹でるための大きな羽釜や、店の命とも言える出汁の鍋が並び、店主が一人、静かにその場を守っています
会計もこの場所で行うという、無駄のない動線に店の歴史を感じます
奥にはテーブル席と、さらにその奥にはゆったりとした小上がりの座敷があり、見た目以上に広い空間です
かつては倉庫か作業場だったのではないか、そんな想像を掻き立てる梁や柱が、この店の空気感を作り上げていました
壁に掲げられた品書きは、「天麩羅うどん」「天麩羅そば」「めし」の三つのみ
この潔さに、店主の揺るぎない自信が窺えます
迷うことなく、暖簾にもその名が染め抜かれていた「天麩羅そば」をお願いしました
ほどなくして運ばれてきた一杯は、実直そのもの
やや浅く大きな丼に、堂々としたかき揚げが鎮座し、その上には青々としたネギが彩りを添えます
丼から立ち上る出汁の香りが、ふわりと鼻腔をくすぐりました
まずは、琥珀色に澄んだ汁を一口
関西風を思わせる出汁の風味がしっかりと感じられ、それでいて鹿児島の蕎麦にありがちな強い甘さは抑えられています
キリリと輪郭の立ったこの味わいは、蕎麦の風味を最大限に引き立てるための計算でしょう
これならば、白飯との相性も抜群に違いありません
そして主役の蕎麦
手打ちの十割と聞いて、少し身構えて啜りました
この土地の十割蕎麦は、素朴で切れやすいものが多い印象でしたが、ここの蕎麦は良い意味で裏切られます
つなぎに何か秘訣があるのでしょうか、まるで二八蕎麦のように滑らかで、しっかりとした歯応えとのど越しを楽しむことができました
かき揚げは、ごぼうの風味が豊かで香ばしいもの
揚げたて熱々というわけではありませんが、それがかえって汁によく馴染み、味わいに一体感を生み出しています
これもまた、店主の狙いなのかもしれません
添えられた大根の漬物が、良い箸休めになります
当地の食文化に根差した、ささやかながらも心憎い演出です
1100円という価格は、日常の昼食と考えると少しだけ贅沢かもしれません
しかし、この独特の空間で、丹精込めて作られた他にはない一杯を味わう時間には、その価値が十二分にあると感じました
昔ながらの空間で、本質を追求した蕎麦と向き合う
たまには、このような豊かな食事の時間も良いものです
ごちそうさまでした
- 加治木駅
- そば・蕎麦

空港近くで発見!地元で愛される物産館
鹿児島空港からすぐ、旅の途中に立ち寄りたい物産館です
広々とした駐車場を完備し、周辺には魅力的な飲食店やフルーツショップも立ち並びます
午後に訪れると、駐車場はほぼ満車で店内も多くの人で賑わっていました
道の駅のように、地元の特産品や新鮮な野菜がずらりと並びます
今回は、心惹かれたお土産の和菓子を2つ選びました
一つは上品な甘さのしぐれ、そしてもう一つが名物のからいも餅です
からいも餅は、南九州で古くから愛される郷土菓子で、つきたてのお餅と甘いさつまいも(からいも)を丁寧に練り合わせたもの「ねったぼ」とも呼ばれ親しまれています
その上に、艶やかなあんこがたっぷりとかかった逸品を見つけ、思わず手に取ってしまいました
どちらも淹れたての鹿児島茶と共にいただくと、口の中いっぱいに広がる優しい甘さが、旅の疲れをそっと癒してくれました
- 嘉例川駅
- グルメその他

混ぜる儀式で覚醒する、鹿児島の王道ラーメン
鹿児島ラーメンの魂とも言える王道、ザボンラーメンへ
ランチの喧騒が落ち着いた時間にも関わらず、店内は熱気に満ち溢れています
鹿児島空港がすぐそこだからでしょうか、旅立ちの前の腹ごしらえや名残を惜しむ人々で賑わいます
この一杯を求めて、遠方からわざわざ訪れるファンがいるのも頷けます
かつては常連だけが知っていた美味しさの秘訣、あの「混ぜる儀式」が、今では誇らしげに掲げられています
期待に胸を膨らませ、まずは券売機で食券を購入します
今日はお腹も心も満たされたい気分、迷わず「チャーシュー麺(1,100円)」を選びました
広々とした店内にはテーブル席とカウンター、そして奥には寛ぎの座敷も用意されています
今回はゆったりとテーブル席へ
食券を店員さんに託したら、水とあの食べ放題の漬物を準備します
いつの間にかセルフサービスに変わっていたのも、なんだか新鮮です
鹿児島のラーメン店に欠かせない大根の漬物が、待つ時間さえも至福のひと時に変えてくれます
そして10分ほどで、待ちに待った一杯が目の前に現れました
丼を覆い尽くすチャーシューの圧倒的な存在感に、思わず心が躍ります
シャキシャキのキャベツに香ばしい焦がしネギと刻みネギ、たっぷりのもやしとキクラゲ、これぞ鹿児島の王道です
最高に美味しくいただくための大切な儀式、「混ぜ」をはじめます
丼の底に眠るスープの真髄と秘伝のかえしを、麺と共に優しく天地返しするように全体へといきわたらせます
全ての具材が一体となった瞬間、最高の物語が始まります
ふわりと広がる優しいとんこつの香り、そこに野菜や魚介の奥深い旨味が溶け込んだスープは、甘めの醤油だれが全てを優しくまとめ上げ、思わずため息が出るほどの美味しさです
これです、これこそが心に染み渡る、慣れ親しんだ鹿児島の味
小麦の豊かな風味を感じる中太麺は、つるりとした喉ごしがたまりません
途中で卓上のニンニクを少し加えれば、また新たな感動が待っています
心もお腹も満たされる懐かしの一杯、最高の鹿児島ラーメンをごちそうさまでした
- 嘉例川駅
- うどん