『ガキのささやき』2024.12.4
▶︎流行語でも新語でもないので、世間でそう話題になることもなかったが、2008年の北京パラリンピックを報じる新聞で目にした宝石のような言葉が忘れられない。 男子400メートル、800メートル(車いす)で2冠を手にした伊藤智也選手が、金メダルの喜びを語っている。 〈いままでの人生で5番目にうれしい。子供が4人いるので。〉 その子たちが生まれた時はもっとうれしかった、と。
▶︎師走の声を聞くといつも、その年に出会った宝石を胸の中の手帳から取り出して眺める。ずいぶん前のことだが、70歳で逝去した作詞家阿久悠さんのお別れの会で、会場に飾られていた詩を思い出していた。 〈夢は砕けて夢と知り/愛は破れて愛と知り/時は流れて時と知り/友は別れて友と知り〉
▶︎手帳には悲しい宝石もある。2011年東日本大震災、当時4歳だった岩手県宮古市の昆愛海(こんまなみ)ちゃんは、親戚の家のこたつの上で色鉛筆をもち、覚えたてのひらがなで1時間近くかけ、1文字1文字、行方不明の母に手紙を書いた。 〈ままへ。いきているといいね おげんきですか〉 小学生となって漢字を学び、自分の名前の中で「母」が見守ってくれていることに気づく日も遠くないだろう。当時新聞記事を見ながら、そう思った。 今はもう17歳、看護師への道を選択され、頑張っているという。
▶︎今年の「新語・流行語大賞」が〈ふてほど〉であることに異存はない。偏向報道のオールドメディアによる「不適切報道」ではないようだが。しまう場所が宝石とは違うだけである。 いよいよ、年末年始の足音が聞こえてくる。
