中島敦の「山月記」は、著者の死後80年以上経過した今も、高校国語の教科書にも掲載され(現在は「文学国語」)、多くの熱烈な読者を持つ名作です。
しかし、「漢文訓読調の文章」と紹介されることもあるなど、現在の高校生の多くは一読して、「むずかしい文章だ」と感じるか、あるいは人間が虎に変じる怪奇譚としてのみ捉え、より奥深い、李徴の「人間ゆえの苦しみ」にまで思い及んでいないケースが多いのではないかと危惧されます。
そこでこのたび、「真の国語」を教える国語教材を継続発行している有限会社言問学舎が、『スーパー読解「山月記」』を出版致します。高校生の時期に「山月記」を学ぶ機会のある若年層や、かつて愛読した成人にも親しんでいただくことをねらいつつ、「人間ゆえの苦しみ」をより深く理解できるよう、工夫を盛り込んでおり、高校生の国語力を伸ばし、かつて愛読した成人の方たちにもふたたび深く読みこんでいただける自信作です。2023年5月発売の『スーパー読解「舞姫」』につづく「スーパー読解」シリーズの第2弾となります。
言問学舎の「真の国語」は、文章をより深く味わい、理解するために音読を必須の要件としておりますが、前作『スーパー読解「舞姫」』ではDVDで提供していた編著者小田原漂情による本文全文の音読映像を、ひろくYouTubeの一般公開で提供する形と致しました(次作以降の音読映像提供方法は未定です)。全6回のうちの第3回について、YouTube視聴者の方からこんな声が届いております。
<小田原さんの声、速度、抑揚、とっても良くて、数分の間に、虎になっていく“人の心”が、静かに強く響きました。>
では本冊の内容を紹介させていただきます。
読解篇Ⅰは、教科書の語釈だけでは理解しにくいであろうと考えられる難解な用語、表現を、わかりやすく解説しています。そして読解篇Ⅱで、李徴を虎にさせた原因、すなわち李徴の「人間ゆえの苦しみ」の本質を解き明かします。さらに読解篇Ⅲで、冒頭から順に、細かい部分にまで踏みこんで問いを投げかけ、深い理解を促す仕組みとなっています。もちろん読解篇Ⅱ、Ⅲには「解答例」を赤字で記載してあります。問いの解答が書けなくとも、解答例を読めば十分な理解が得られるはずです。

発展篇Ⅰでは、袁傪一行の前で李徴がつくった即席の律詩を読み解きます。わかりやすい現代語訳を付していますから、李徴の「詩」についてもよく理解できるでしょう。さらに発展篇Ⅱで、「山月記」の原典である「人虎伝」の書き下し文(『新書漢文大系⑩ 唐代伝奇』明治書院 による)と現代語訳を読むことができます。律詩、人虎伝とも、現代語訳は、小田原漂情自身が手がけています。
その上で、発展篇Ⅲでは「人虎伝」と「山月記」を対比させて、その相違点(李徴からの袁傪への頼みごとの順序など)から著者中島敦がねらったところや、中島敦自身の境涯、感慨にまで立ち入って、「より深く考える」構成をとっています。
文学作品の解釈というものは、よく理解している人には楽しいものですが、慣れていない人、苦手な人には、むずかしいものです。しかし、難解な、どこからそんな答えが出てくるのだろうというような「解釈」ばかりでなく、作品中のいろいろなところにちりばめられている「手がかり」から、自分が感じ、考えたことを書き出していき、それをまとめることで自分なりの「解釈」ができあがります。その繰り返しによって、読み解く力がついていくものですし、それが国語力、思考力を大きく伸ばす原動力となるのです。本書はそのことを、「山月記」をテクストとして体現しております。また先行する『スーパー読解「舞姫」』でしっかり勉強した高校生たちは、大学受験における論説文の読解問題を解く時も迷わずに正解を見つけられる「得点力」を、しっかり身につけました。「山月記」も「舞姫」に負けず劣らず、未知の世界の物語の展開を読みとる醍醐味にあふれ、読み解くことで深い洞察力を身につけることのできる作品です。
より深く「山月記」を読み、国語の力、生きる力の一端としていただきたく、『スーパー読解「山月記」』を送り出すものです。言問学舎店頭では、6月19日発売予定です。
